近年、耳にすることの多い「モラハラ」「セクハラ」「パワハラ」といったワード。これらのハラスメントは職場での立場の悪化や生産性の低下だけでなく、精神的・肉体的に追い詰められることで日常生活そのものを脅かしかねません。
今回の記事では、モラルハラスメントの事例と対策、さらに心理的負荷による労災認定の方法まで詳しく解説いたします。
- ハラスメントの定義
- モラルハラスメントとは
- ハラスメントによる労災認定が可能
そもそも、どこからがハラスメントなの?
ハラスメントとは、さまざまな場面での「嫌がらせ」や「いじめ」のことを指します。
一般的にハラスメントとされるものの定義は…
- 相手を不快にさせる
- 尊厳を傷つける
- 不利益を与える
- 脅威を与える
これらハラスメントでポイントとなるのは、他者に対する発言・行動などは本人の意図と全く関係しないということ、たとえば加害者となる人物が「冗談で言っただけ」「本気にするとは思わなかった」なんて言い逃れをしたところで、受け取り手が不愉快に思えばそれがハラスメントとなるのです。
職場におけるハラスメントのワーストランキング
1位 モラルハラスメント
2位 エイジハラスメント
3位 セクシャルハラスメント
4位 アルコールハラスメント
5位 スモークハラスメント
6位 テクノロジーハラスメント
7位 マリッジハラスメント
8位 スメルハラスメント
9位 パワーハラスメント
10位 マタニティハラスメント
※出典:全研本社「ハラスメントの実態」
上記のアンケートでは316名(男性139名:女性177名)のサイトユーザーが対象となっており、回答者の約9割が「職場で嫌がらせを受けたことがある」と答えています。そして、「モラルハラスメント」83.2%「エイジハラスメント」25%「セクシャルハラスメント」21.5%と続くように、嫌がらせの種類は実にさまざまなことが分かります。
ハラスメントを放置すれば、状況の常態化につながって精神的に追い詰められて離職につながるケースもたくさんあります。対策方法を学んでしっかり身を守りましょう!
ワーストランキング1位!モラルハラスメントとは
「モラルハラスメント」とは、言葉や態度、身振りや文書によって人格や尊厳を傷つけたり精神的に追い詰めることです。職場におけるモラハラでは、職場の雰囲気を悪くするほか、職場を辞めざるを得ない状況に追い込むこともあります。
また、モラハラの加害者となるのは、上司だけではなく部下や同僚など、立場や役職の上下関係は問いません。近年では夫婦間のモラハラも問題となっています。
- 言葉や態度による精神的な嫌がらせ
- 直接的・身体的な暴力はない
- 密室など他者から見えにくい形で行われる
- 加害者は、ターゲットとなる被害者以外には人当たりが良い
- 被害者は、加害者ではなく自分自身に問題があると思い込みやすい
このように、モラハラは目に見えない嫌がらせが特徴のため、仕事仲間や上司、友人などへの相談がにくいハラスメントでもあります。まずは、実際にあったモラハラの事例から、自分がどれに当てはまるかをチェックしてみましょう。
これってモラハラ?
モラルハラスメントの特徴的な事例
無視をされる
仲間外れにされる
仕事を回してくれない
必要な資料を渡してくれない
根拠のないうわさを流された
自分の仕事に直結しない、お茶汲みなどの雑用ばかり頼まれる
休日や深夜にメールやLINEで嫌がらせをされる
立場が悪くなるようなメールや文書を職場のみんなに送られていた
身体的な特徴をからかわれた
プライベートについて干渉して否定される
「こんなことも出来ないの?」「馬鹿」等の言葉の暴力
パワハラとはどう違うの?
「パワーハラスメント」とは、“上司と部下”“雇用主と被雇用者”というように、権力や立場を利用して職場の上下関係の中で行われる嫌がらせのことです。たとえば、「上司がみんなの見ている前で怒鳴ったり手を挙げる」など直接的な暴言や暴力がそれに当たります。
また、職場内で公然と行われるため、隠れた場所で嫌がらせをするモラハラと違い、周囲が気付きやすいハラスメントでもあります。
なんで自分が被害者になっちゃうの?
加害者がモラルハラスメントを行うきっかけは、「気に食わないから」という単純なものから、被害者の能力や人間関係における嫉妬や逆恨みなどさまざまです。さらにいえば、加害者自身がモラルハラスメントを行っている自覚がないこともあります。
入社2年目でやっと一通りの仕事を一人で回せるようになった頃、パートの事務員さんとして40代の主婦Bさんが入社してきました。
私よりも年上の後輩が出来たことに最初はどうやって指導していこうか戸惑いましたが、その方はすごく人当たりがよくて、ランチ時にはプライベートの話などもするような間柄になりました。
それからしばらくたったある日、私は突然上司に呼び出され「Aさんって退勤後にいかがわしい店で働いてない?」と聞かれたのです。当然、私自身に心当たりはありません。
必死で否定しようにも証拠がなく困っている中、「人づてに聞いた噂だから」と厳重注意という形でその場はそれで終わりましたが、「人づて?」「誰から聞いたの?」「根も葉もない噂がなんで?」と、心のモヤモヤは濃くなるばかりで、仕事に集中することも出来ません。
次の日の朝、Bさんへ挨拶すると何だかよそよそしくて「もしかして噂のせいかな」なんて落ち込んでいると、前から比較的仲の良かった営業の男性社員Cさんから「パートのBさんが“Aさんが無視する”って言ってるけど違うよね?」と聞かれビックリ!
その時、まさかと思い、噂のことをCさんに聞くとビンゴ。やはり噂はBさんが流していたようでした。
真実が分かったところで年上のBさんに聞くのは怖いとは思いましたが、上司からの評価が下がるのは正直迷惑です。勇気を振り絞って上司立ち合いのもとBさんに話を聞くことになり、Bさんは「営業のCさんと仲の良いAさんに腹が立っていた」とスグに白状しました。
私自身、“仲が良いといっても仕事の話をする程度なのに?”と、Bさんの理由には驚きで、良い人だと思ってプライベートの話をしていたのも、こんな形で裏切られたことにショックでした。
結局Bさんは退職し、上司からは謝罪の言葉をいただきました。
このように、モラルハラスメントの被害者にとって、加害者の理由は予測も想像も大変難しいです。
逆に、加害者となる人の特徴としては、「承認欲求や自己顕示欲が強い」「過保護や過干渉な環境で育っている」「見捨てられ不安が強い(他者へ依存しやすい)」などがあります。残念なことに、万が一被害者が職場を離れたところで、ターゲットが変わるケースも少なくありません。
もしも、ハラスメントを受けたら
モラルハラスメントは侮辱罪、脅迫罪、名誉棄損罪といった法律に違反する行為です。「私なにか悪いことしたかな?」「私ってそんなに仕事できないかな?」なんて一人で問題を抱え込む必要はありません。
ここではモラハラに限らず、ハラスメントで精神的苦痛を感じたらスグに対応するべきプロセスを解説します。
(1)被害内容を記録する
スマホのスケジュール機能や手帳などを使って細かくメモしておくことが大切です。LINEやメールのやりとりの保存や、無料のボイスレコーダーアプリをダウンロードして音声を録音するのも有効な証拠になります。
- 加害者の氏名
- ハラスメントだと感じた日付と時間
- どのようなことをされたのか
- 場所や状況、周りに人がいたかどうかなど
- その時の自分の感情と心身の状態
(2)医師の診断書をもらう
モラルハラスメントを受けたとこによるストレスが原因で、うつ症状などの精神障害だけではなく身体的なダメージを負うケースもあります。心や体に少しでも異変を感じていたら心療内科や精神科、内科や消化器科などで診断書をもらいに行きましょう。
また、ハラスメントによる発症は、下記でもご紹介する労災補償の対象になります。
頭痛
腹痛
下痢
吐き気や嘔吐
めまい
耳鳴り
不眠
拒食または過食
イライラが止まらない
突然不安な気持ちになる
悲しくもないのに涙が出る
神経質になって心に余裕がない
普段はしないような失敗を繰り返す
(3)上司や人事、社内の窓口へ相談する
何の下準備もせずに上司や人事へいきなり相談するよりも、記録した被害内容と診断書をもっていった方が断然効果的です。ただし、相談相手を間違ってしまうとかえってあなたの立場が悪くなることもあるので要注意!社内にハラスメント相談窓口や労働組合があればそちらへ。信頼できそうな職場の仲間に状況を相談しておくのも有効です。
(4)外部の相談窓口を利用する
もしも、上司や人事など会社側が何の対処もしてくれなかった時は、記録した証拠を持参して外部の相談窓口へ行ってみましょう。まだ証拠がない場合でもチカラになってくれますよ。
ハラスメントに関する相談機関一覧
パワーハラスメントやモラルハラスメントの定義や、下記で解説する労災認定基準を満たしている場合は、精神的損害に対する慰謝料や治療費、会社を休んでいた間の給料などを損害賠償として請求することも可能です。
ハラスメントによる労災認定が可能です
現在「パワーハラスメント」をはじめ、「セクシャルハラスメント」での性的な嫌がらせや「モラルハラスメント」による嫌がらせなど、ハラスメントによって精神障害を発病した場合には厚生労働省より労災補償の対象になります。補償が認定されれば、治療費や休業補償などが支給されるので該当者は是非チェックしておきたいところ。
では認定されるためには、どのような手順で進めて行けばいいのでしょうか?
ここでは労災認定の基準とプロセスを解説します。
ハラスメントで適用される労災認定の基準
(1)精神障害を発症している
ハラスメントが原因による被害で代表的な精神疾患には、うつ病、適応障害、心因障害、心因反応、睡眠障害などがありますが、これらの症状にはいずれも個人差があります。上記で解説した「ストレス症状のチェックリスト」で当てはまる方は、医師に診断書をもらいましょう。
(2)発症前概ね6ヶ月間に業務による強い心理的負荷が認められる
労働基準監督署の調査に基づいて、心理的負荷による労災認定を審査する際に用いられるのが「心理的負荷評価表」です。この表を元にストレスの強い順で「職場でのいじめ」「退職の強要」などによる心理的負荷を3段階評価し、強と評価された場合は認定要件を満たすことが出来ます。
(3)職場以外の心的負荷によって発病したものではない
ストレスには、仕事に由来するものだけではなく、私生活に由来するものもあります。たとえ、精神障害を発症していても、仕事由来の心理的負荷と認定されなければ労災が下りることはありません。
労災申請の手順
(1)申請
労働者本人または、その家族が自ら労働基準監督署へ行ってください。
労働者労働災害保険請求書(5号、7号、8号用紙)をもらい、住所氏名、生年月日、事件の発生した状況、休業した期間等を記入して提出します。申請書には会社側の押印と労働保険番号の記入が必要です。
(2)診断書をもらう
手ぶらで「精神的な問題による労災を認めて欲しい」と会社側に訴えても取り合ってはくれないでしょう。まずは通っている病院で、治療日数と医師の証明印が押印された「労災のための診断書」をもらいましょう。
(3)書類の提出
5号用紙は病院に提出し、7号、8号用紙は「労働者労働災害保険請求書」と一緒に労働基準監督署へ提出します。会社側の欄は空白でも申請自体は受理されます。
まとめ
国際労働機関(ILO)では、仕事上でのパワハラ・セクハラを禁じる初めての国際条約が採択され、スウェーデンでは“ハラスメントは差別である”として罰金を科し、フランスでも職場内でのモラルハラスメントが法律で禁止され、罰金や禁固刑を科せられます。
このようにハラスメント対策が世界の潮流になり、職場でのハラスメントを刑事罰や損害賠償の対象として直接禁止する国は、ILOが調査した80カ国中60カ国におよびます。こうした状況を受けて、日本でも2020年4月から大企業で施行される見通しとなったパワハラに関する規制法(中小企業は同時期に努力義務、2年以内に義務化)が施行されます。
ですが、企業へのパワハラ相談窓口を義務付けたものの直接禁止する法律はなく、悲しいことに先進国であるG7の中では唯一日本だけがまだまだ遅れをとっている状況です。
これから先、法制化によってよりよい労働環境が保証されることを願うばかりです。